生まれは知らない。親が誰かもわからない。
小さな集落で生まれてしまった、紅い角のナイトメアの少女

幼少から人としては扱われず、忌み仕事を務めさせる労働員として使われる
形はどうあれ村人の役に立ち、生きていくことを許されていたのはナイトメアとしては幸福なのだろうか？
当の本人はそもそも幸不幸の感覚すら持ち合わせない。人と自分の待遇を比べる発想すらなかったのは幸いなのかもしれない

故に村を襲った疫災にも心が動くことはなく、彼等の最期の命にも、抵抗なく従うこととなる
彼らと少女は違う生き物なのだから。仕方ない。しかたない。

彼等の最期の命を済ませる直前に、立派な拵えの大人と共に現れた
この村の外を知らない彼女がこの世で初めて見た同種族(ナイトメア)。

剣を抜いた大きな人間と、何やら言葉を投げあって、彼は手を伸ばしてきた。
よくわからないが、それは害するようなものではなさそうに見えた。

彼は少女に、凡てをくれた。
名を、言葉を、衣を、食を、住を…命を、心を

私には学は無いけれど、何も知らないわけではない。
全てをくれたあの方に、全てをかけて返したい。
それは、ただただ滅私の奉公ではなく、頂いた心の奥に灯る暖かさから、燃え広がる感情の発露でもある