厳格でありながら仲の良い夫妻の合間に生まれ、愛されて幸せな幼少期を過ごす。
母譲りと思われる愛らしい顔立ちと、ふんわりとした桃色の髪。
夫妻は彼女を、大事に大事に育てた。

しかし、そんな日々は12歳になったある日を境に、消え失せることとなる。
……ライトサキュバス、その目覚め。
人間であったはずの愛娘に生えた翼と尻尾に夫妻は大混乱。
度重なる喧嘩と、疑心ゆえの誹謗中傷。
優しかった父が豹変し、母を罵り、殴りつける様を……ずっと、彼女は見ていた。
関係の破綻、その日まで。

家庭は破綻し、彼女は離婚した夫妻のうち……母方へと引き取られた。
女手1つで三年間育てられた彼女は、時折母が哀しげにしている姿をずっと見ているうちに……ある、疑問が生じた。

───母が密通を犯したとは、とても思えない。
───何かの間違いではないか。

……事実、彼女の母は一度たりとも自身の不義密通を認めなかった。
ただ認めていないだけ、というには彼女の母はどうにも真摯で。

思わず、彼女は母に聞いてしまった。

『私は何なのか』と。

母は告げた。
『わからない。私が知りたい』と。

…………その言葉が、今も残っている。

成人となり、渇望するような本能に抗い。
神官としての技能を得た彼女は……『ある物』を探して故郷を旅立つこととなった。
目指すはランドール地方、『泉剣荘』。
そこであれば、目的のものが見つかると信じて───……。