俺は迷信深い寒村で生まれた。父と母は、俺を愛してくれていたように思う。
ナイトメアは穢れ持ち、鬼子と呼ばれ赤子のうちに殺される風習があった。
しかし、母は俺を殺すに忍びなく。愛情を持って角を隠し育てていった。
5歳の頃、角が伸び始めた。鬼子とバレた。
7歳の頃、父が失踪した。迫害に耐え兼ねたのか、それとも何か事情があったのか。
10歳の頃、母が死んだ。流行り病だった。医者は薬を売ってはくれなかった。
村を出た。戦場跡に行き、死体から金や鎧、武器を剥いで生計を立てた。
襲ってくるものは斬り殺した。何処へ行っても、死体漁りの鬼子は受け入れられなかった。
十数年、そうして過ごした。角は伸び切り、もう笠でも隠せない。
ある日、仲間が出来た。冒険者だった。
彼らは俺を、死体漁りの餓鬼を受け入れた。暖かい場所だった。
それからの数ヵ月は、とても幸せだった。冒険をし、刀を振るい、未知を求め財宝を得た。
彼らは強かった。俺など足元にも及ばなかった…はずだ。
皆、殺された。仲間だけじゃない。ギルドも、街も、全て失った。
魔神だったのだろうか。黒い穴から這い出て来たソレは、瞬く間に辺りを壊し、汚染し、殺していった。
俺は戦って、負けた。瀕死の重傷を負い、喰われる寸前で皆が俺を庇った。ソレは、割って入った者を尽く喰らった。
皆、「生きろ」と言っていた。最後に残った俺を、ソレは嘲笑い何処かへ去って行った。

全てを失い、仲間の足を引っ張り、敵に嘲笑され、生き残ってしまった。
生きなければ。

(十数ページぐしゃぐしゃに破られた後がある)

あれから、何年経っただろうか。剣を振るう気力も無く、亡霊のように彷徨っていた。
森で狩人に矢を射かけられ、街では石を投げられ、魔物ははぐれ者に容赦しない。
もう、誰の顔も、名前も思い出せない。こんなことなら、手記に残しておけば。
ようやく、理解した。俺の居場所は、この世に無い。皆の場を占領していただけなのだ。
(ぐしゃぐしゃに書いた文字を塗り潰した痕)
生きなければ。
俺が死ねば、彼らの想いが塵に還る。どれだけ生きる価値が無かろうと、居所が無かろうと、俺は残ってしまったのだから。

生きなければ、ならない。

(以降、白紙のページが続く)