そのティエンスの生まれは中世魔法文明期。生家はとある騎士家系に仕える従者の一家。
幼少期から馬などの騎獣と触れ合う機会が多いということ以外はごく普通の少女として過ごしてきた。

――― ただ一つの不幸と強いて言うのなら
少女の両親が仕える騎士、その騎士が仕える王の征服欲は異常であったこと。
その果ては戦う術を持つ者全てを動員した出征などという狂気。騎士達にそれを諌める者さえいないその異様さに、国の最期を確信した両親達。
彼らは出征準備の短い時間を使い、説明もなく少女に半ば強制的に仮死状態へと陥る魔法を施せば、｜ティエンス《魔神付き》達が眠る地下墓の一角へと安置した。

自分達でなくとも、｜私達《ティエンス》が見つけてくれるだろうと
――― 願うのは、少女は戦乱と無縁の世界を生きてほしいと願って

あのティエンスを見つけたのは、やけに強いアンデッドが蔓延る遺跡だった。
元はエユトルゴへの護衛依頼であの辺りに行った帰り、その途中で「変な声が聞こえる」なんて同行者が言ったのが切っ掛け。
大した遭遇も無ければ、依頼人がケチったせいで懐が寒かった俺達は手土産目的でその声を探しに行ったわけよ。

そんで、見つけたのが蔦やらなんやらで隠れてる穴っぽこと、その先にあからさまな石扉。
体力有り余ってて、後は帰るだけって状況でそんなもん見つけたら入るだろうよ？
ざっと調べた他の同行者の話では、掠れてる扉の文字からして魔法文明の墓所には間違いないらしいが、そこに飾られていた紋章に心当たりがなく外れの部類だろうと。
その話聞いてからあのアンデッドとやり合った時程後悔したことはー…結構あるな。実際、その遺跡の中にアンデッド以外碌なものはなかった。
アンデッドが持ってた武器も全部数打ち、副葬品だって疎らなクズ石位しか入ってないし。
墓荒らしだなんて人聞きの悪いことなんて言ってくれるなよ。俺達が来なきゃアンデッドのままだったわけなんだ、送り賃位貰ってもいいだろう。

――― そんな所で”綺麗な死体”見つけた時程驚いたことはないな。
収められたというよりも押し込められたって具合の荒れは気になりはしたが、魔法文明のまっさらな死体ってなれば物好きが高い金出すってすぐ思いついたよ。
ただまぁ……なんだ。
一応真っ当に冒険者やってる身でそんな奴らに顔が効くわけないし、しかもよく見れば｜ティエンス《宝石付き》だって分かってよ。
そうなったら、尚の事金にする宛なんてあるわけがないって困ってたとこに最初に声を聞いた奴が……あぁ、ソイツもティエンスでさ。
「仮死状態かもしれない」って言い出したわけ。
それでももし起きたら手土産どころじゃないだろうって反対はしたが、放って置いたらあのアンデッド達が成仏できないとか説得されてな。

そこからも大変だったじゃすまないのなんのって。
あっさり起きたガキを宿まで運んでからさ、せめて仮死になる前の話で稼いでやろうと思ったのに寝てたのが長過ぎるのか大したこと覚えてないわ。ティエンスの”通じ合う意識”？だかでしかこっちと話せないから付きっきりで言葉教えたり。
まぁ、俺はその間はさっさと手放せよって言ってただけだけど。

――― なんだかんだで7年、か。
知ってる顔は減ったし、知らない顔は随分と増えたもんだ…………あのガキ起こしたティエンスにも話を聞きたい？
あぁ、アイツなら6年前に”辞めた”よ。