日課の読書のために父の書斎へと向かう最中、屋敷がやけに慌ただしいことに気が付いた。
居合わせた兄に話を聞いてみると、商会の大口の取引相手であったコハーリ王国が唐突に巨大な魔域に覆われたとのことらしい。

それを聞いて脳裏に浮かんだのはコハーリ王国の第二王子で友人のリンクスの顔だった。
数年前、兄のコハーリ王国との交渉にレグルスが無理を言ってついて行った際に知り合った2人は立場上、年の近い友人が互いにいなかったこともありすぐに友人となった。

そんな友人の国が魔域に覆われたと聞いて顔を青ざめたレグルスに兄が声をかけた。
現在、銀狼商会のウルシラ支部でリンクスが保護されていて、国が魔域に覆われたことを伝えたのは彼だったらしい。

話を最後まで聞く前に、レグルスは魔航船の発着場へと向かった。
ハルシカからウルシラの各地を巡る船は、商会と定期契約を結んでいるものがある。父様の名前を出せば断れないはずだ

着の身着のままで船へ飛び乗り支部があるユランアウルクまで到着したレグルスは、急ぎ銀狼商会へと向かう。
商会の護衛や商人たちの制止も振り切り扉を開けると目を丸くして驚く友人の姿があった。
友人の無事を確かめ、今回の一件の経緯をリンクスから聞くことになった。

コハーリ王国は元々、魔域を封印した土地にあり、代々王がその魔域を治める役割をしていたこと。
それをリンクスの兄、第一王子であるサイが封印を解き放ったこと。
リンクスの家族や国の従者たちは彼を逃がすために犠牲になったこと…

話の壮絶さにレグルスが言葉を失っている中、リンクスがポツリ、ポツリと言葉をはき出す。
自分は皆に託されて生き残った。　だから、必ずこの手で国を再建するんだ
その言葉は、信頼する兄に裏切られ、大切な物を一瞬ですべて失った青年の命を繋ぐためのか細い希望だった

その希望は余りにも小さく、今にも消え入りそうな種火ではあったが、レグルスの中で燻っていた感情に火をつけた。
「全部取り戻そう！２人ですっげぇ冒険者になってさ！！！」
まだ傷も癒えないリンクスの手を引いてレグルスは冒険者の宿へと走り出した。

燻る煙は友の希望を照らすために燃え盛る炎へと姿を変えた。
道の果てまでこの炎が消えることはない

銀狼商会からの人材の紹介や、行商の際の護衛としての武装従者の雇用、ソルヴァ家で働いているメイドなど様々な面で業務的な提携をしている。

今回の件でレグルスが1人で飛び出したのを聞いた際にレグルスの父である銀狼商会の会長がレグルスが帰ってくるまでの護衛の依頼をしている。

元々ウルシラ支部から連れ帰るまでが依頼内容であったがレグルス本人がそれを拒んだため、依頼内容を期限未定の長期任務とし、比較的新人の2人と責任者が担当している。

銀狼商会…リカントの相互扶助を掲げる商会。
各地にある排他的なリカントの集落との交易を独占しているため安定した経営と事業拡大をしている。
リカントの仕事の斡旋も行っており、集落の若者と街の人手が必要な職場を繋げている。
自社での製品の生産、販売は行っていないので普通に町で暮らしている人はあまり聞きなじみが無いが、
商いに関わる者や行商の護衛を頻繁にしている冒険者などにはまぁまぁ有名位の知名度

レグルスのお母さんは羊のリカント。真っ白な毛並みが特徴的