「“魔動天使”としての話」
“人間”と偽って人の街で暮らしている“魔動天使”の一機。
製造年代としてはかなり古く、後の魔動機天使たちには必ず見られる頭上の光輪も存在しない。
この機体は連続稼働年数が“30年”近くなると自動で機能を停止し(寿命を迎え)、再起動(輪廻)を経て再びエンジェルススフィア内から顕現する。
この周期は長い時を経て短くなっているらしく、現在は18年ほどにまで減少している。
この機体はこれまで様々な要因で300回以上“機能停止”(Shutdown)と“再起動”(Reset)を繰り返してきたことが確認されているが、本来ならば再起動に伴う『記憶の消去/リセット』が行われず、記憶の連続性を保っている。
保たれるのは『記憶』のみであり、『経験、武装』は引き継がれない。

「あの時は確かに、運命だと思っていたよ」
この機体は魔動機文明初期から中期にかけて、『水銀の月』と呼ばれていた盗賊団に加入していた記録が残されている。
スクラップ置き場にて長らく放置され、完全に壊れる寸前だったこの機体は『水銀の月』のボス……『ギルバート・ベイン』に拾われ、契約を結ぶ形でそのまま加入する。
徐々に『水銀の月』及び『ギルバート・ベイン』の信頼を掴んでいき、最終的に団の実質No.2…特にギルバートからは『相棒』と呼ばれるほどにまで上り詰めるが──

「いらっしゃい。……なんだい、お客さん。前にも会った？　はは、気のせいだろ」
魔動機文明時代中期の終わりごろから、この機体は“魔動天使”であることを隠し“人間”として人間社会に紛れ込む。
住む場所を点々とし、必要に応じて変えられる範囲の容姿を変え。
“仕事”だけは変えられずに、そうして───現代に至る。


この機体との“契約”は、少し変わっている。
契約者の命令に機体への強制力は発揮されず、魔動天使が有する契約者への探知能力も極めて微弱である。

今、この機体は誰とも契約を結んでいない。
大きく心変わりでもない限り、これから先も誰かと契約をすることはないだろう。

とある一人のハイマンを素体として“第一世代”より前に製造された1体の“試作型魔動天使”(プロトタイプ)と、関連する実験群を指す。
あらゆる実験、数多の技術検証において理論上最低の数値を叩き出し続けたこの機体は実験終了を以って廃棄されたとされている。
この機体についての資料は殆ど残っていないが、戦闘の他に「素体」及び「“核”に封じられた魂」の特殊能力を維持するために製造された可能性が示唆されている。

───詳細不明。