【メルクス翻弄戦技法】は、150年ほど前、タミール山脈付近を根城としていた人間の武闘家であるメルクス・リーチェが考案した流派です。
　メルクスは生まれつき力が弱く、当時師として教えを乞うていた師匠の攻めに重きを置く闘い方ができずにいました。いかに手数があろうとも一撃の軽さが命取りとなり、防御の堅い相手には手も足も出ないと評価され、その弱点を克服すべく修行に励みましたが、体質の問題なのか一向に改善することはありませんでした。
　教えに従えず失意に暮れるメルクスでしたが、あるとき、山中でウルフの群れを目撃します。群れは大きなグリズリーに追いかけられており、もうすぐ追いつかれるという絶体絶命の状態……メルクスも自然の摂理と目を伏せようとしました。
　その時、群れの中から1匹の小さなウルフが飛び出し、グリズリーの目の前に躍り出て行ったのです。わざとらしく体を大きく動かし攻撃を誘いよけ、最後には視界を奪って追走をしのぎきり群れへと帰っていきました。
　このウルフ行動にメルクスは感銘を受け、力のない自分にも未来がある事を確信した後、師の元から離れ独自の技術を生み出すことに成功します。
　かつて見たその光景を可能な限り再現したというその動きは、魔法行使における思考や動きを乱し、また相手の目を狙うことで視力を奪うことを可能としました。高潔な武闘家からは｢卑怯な立ち回りだ｣と非難もされましたが、メルクスはこれが弱者なりの戦い方であると誇りを持っていたようです。
　その後、メルクスは力がなくとも戦場に立ちたいという者たちに技を授け続けていき、連合軍の戦況が激しくなった際に数名の門下生と共に連合軍へ参戦、幾度の危機をその技術により掬い上げ続けた後に、蛮族の手により最期を迎えました。
　メルクスが生み出した力無き者のための技は、残された門下生により絶やさず受け継がれており、ユランアウルク聖竜国に住まうエルフやメリアを中心に、今もなお伝えられ続けています。メルクスが遺した書物には山籠もり中や秘伝を生み出すまでにおける数々の体験がこと細かに書かれており、秘伝における体さばきを身のこなしに応用できること、蛮族たちを相手取るさいに観察すべき場所があること、特殊な隠し武器の制作方法などは、現在でも参考にされています。

流派装備

　この流派には、刃が伸縮し、攻撃する直前に出してリーチをわずかに伸ばしたり、先に大きく刃を展開して殺傷力を高めたりできる、特殊な暗器が伝わっています。